漢方日記

しゃっくりの治療に役立つ柿の蒂(へた)

不意に発生するしゃっくり。たいていは半日もすればいつの間にか治まっているものです。早く治すために呼吸を止めてみたり、水を妙な飲み方で飲んでみたり、あるいは誰かに驚かしてもらったりと、いろいろな工夫を試みた経験は多くの方にあるのではないでしょうか。効果があるようなないような。それでも通常大事に至ることはありません。こういった短期のしゃっくりは何らかの刺激が一時的な横隔膜の痙攣を引き起こして生じるとされています。

ところがまれにこのしゃっくりが長期にわたって続く方がいらっしゃいます。慢性のしゃっくりは、さらに息苦しさや不眠などの原因となりますし、精神的ストレスも相当なものと考えられます。このような難治性のしゃっくりの原因は大きな病気と関連することが少なくあません。例えば脳の病気や呼吸器系あるいは消化器系の疾患などとの関連が考えられ、また薬の副作用で発症することもあります。とくに抗がん剤やがん治療時の吐き気止めなどの副作用として生じることがあります。

このような慢性のしゃっくりに対する治療薬の一つに柿蒂湯(していとう)という漢方薬があります。柿蒂湯は中国の宋代末期、1253年に書かれた『済生方』という書物の中で「胸満して吃逆(きつぎゃく)が止まないものを治す」と紹介されています。胸満は胸が詰まって苦しい状態です。吃逆はしゃっくりのことで、現在でもしゃっくりを意味する医学用語として使用される言葉です。柿蒂湯に含まれる生薬は柿蒂(してい)、丁子(ちょうじ)、生姜(しょうきょう)の3つのみで、比較的シンプルな処方といえます。柿蒂は柿の蒂、丁子は丁香とも呼ばれる香辛料のクローブ、生姜はショウガです。非常に食品に近い漢方処方といえます。日本の漢方製剤の規定書には体力にかかわらず使用できるとされていますが、丁子と生姜はとても体を温める生薬ですので、体が火照っているときには注意が必要です。

柿の蒂を用いる処方は中国でも決して多くはないのですが、中国の生薬の教科書では、吐き気や咳などにも用いるとされています。しゃっくり、吐き気、咳はいずれも上へこみ上げる症状です。柿の蒂にはこれらの症状を下方へ向かわせる働きがあるとされているのです。

秋から冬にかけて実を食用にするものから蒂を採集すればよいのですから、資源に困ることはありません。この蒂が薬になることによく気づいたものだなあと先人の遺業には驚かされます。

写真 柿蒂湯の含有生薬 左から柿蒂、丁子、生姜