漢方日記

サルビアの仲間 タンジン《NaturalLife125_’22.8》

夏から秋にかけて公園や道端でよく見かける真っ赤な花が印象的なサルビア。緋衣草(ヒゴロモソウ)という和名があり、緋は濃く明るい赤色を意味します。花の基部には蜜が入っており、子供の頃に花を抜き取っては甘い蜜を吸った思い出があります。

サルビアというと一般的にこの赤い花の園芸植物を指すのですが、実際にはサルビアの仲間はたくさんあり、○○サルビア、○○セージと呼ばれる園芸植物やハーブは、植物分類上、みなシソ科のアキギリ属に属します。

そんなサルビアの仲間の一つで、タンジンと呼ばれる薬草があります。漢字で書くと丹参となり、この丹の字は黄色みを帯びた鮮やかな赤色を意味します。頭頂が赤い丹頂鶴の丹もこの意味です。タンジンの場合は、花は青紫色で根が赤くなります。このタンジンの根を乾燥したものが生薬「丹参」として流通しています。荷花池生薬市場の丹参2017.10.28

中国に残る最古の薬物書で約二千年前に書かれた『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』には、「心腹に邪気があり、水が走る如く腹が鳴り、寒熱の蓄積するのを治療する。体内の腫塊や膨満を取り除き、気を増す」と記されています。その後丹参は、血行改善の薬草と認識され、とくに心疾患の予防や治療の方剤に多く含まれるようになります。

ところで、日本の漢方は中国の伝統医学から知識や技術を導入してきたのですが、丹参やそれを含む処方は、どういうわけかほとんど伝わってこなかったのです。日本で丹参が注目されるようになったのは、1980年6月に出版された『中医臨床』(東洋学術出版社)という季刊誌で中国における丹参の応用が紹介されたことがきっかけでした。そのとき執筆を担当した薬剤師の猪越恭也(いこしやすなり)先生は、日本での丹参製剤の開発をある製薬会社に働きかけ、苦節10年、1991年に丹参を主薬にした顆粒剤の発売に漕ぎ着けました。効能は「中年以降または高血圧傾向のあるものの次の諸症:頭痛、頭重、肩こり、めまい、動悸」となっています。その後この丹参製剤は徐々に全国に認知されるようになり、今では複数の製薬会社が製造販売を行っています。そして2012年には日本の医薬品の公定書である『日本薬局方』に丹参が収載されるにまで至ります。さらには循環器の問題だけでなく、認知症や慢性腎臓病の分野でも丹参製剤の薬理実験や臨床研究が行われており、まだまだいろいろな可能性を持つ薬草といえそうです。

国際医療福祉大学薬草園(大田原市)のタンジン2022年6月植物としてのタンジンは一般には馴染みがないかもしれませんが、各地の薬草園などでは見かけることも少なくありません。タンジンの花は赤いサルビアよりやや大きめで、6月頃に唇形と形容される花を密に咲かせます。きれいな青紫は園芸用としても見応えがあります。

Natural Life No.125
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2022年8月号に掲載