漢方日記

サラシナショウマ《NaturalLife132_’23.10》

 写真1 サラシナショウマ

草木に囲まれた緑の山林内を行くとき、白いサラシナショウマの花に出会うとその雰囲気の良さにワクワクした気持ちになります。小さい花がたくさん穂状に付き、花穂の長さは20~30cmにもなります。草丈も大きく、大きいものは人の背丈ぐらいになりますから、見ごたえのある姿です。その花穂はよく白いブラシと表現されますが、私にはサルか何かの尻尾のようにも見える気がします。花の時期は夏から秋で、園芸用の山野草としても流通しています。

 漢字をあてると晒菜升麻となります。晒菜の由来は、山菜として若葉を晒して食べたことにあるといわれます。升麻の方は、薬草として用いたときに上昇の作用があり、また葉の形が麻の葉に似ているからとされています。しかし葉の形は麻の葉に似ているとは思えません。薬用に用いるのは地下茎で10月~11月、地上部が枯れた株の地下茎を掘り上げて茎やひげ根を取り除き、天日で乾燥させたものが生薬として流通します。生薬名は「升麻」です。外面は暗褐色~黒褐色で,内面はうつろになって放射状の繊維が目立ちます。

升麻には消炎解毒の作用があり、そして前出の上昇の作用があるとされます。上昇の作用をより漢方的な表現を用いると、「陽気を昇提する作用」となります。消化吸収の機能が低下して栄養状態が悪化した結果、筋肉の緊張がゆるみ、気力や体力が低下し、ひどいときには胃下垂や子宮脱、脱腸などをきたすことがあります。このような気力体力の低下や内臓下垂の状態を改善することを昇提と呼ぶのです。

生薬「升麻」

昇提の作用を発揮するためには、胃腸を強くする生薬や、同様に昇提作用があるとされる柴胡(さいこ)などの生薬を共に用いる必要があり、そのような処方に補中益気湯(ほちゅうえっきとう)があります。痔の漢方薬である乙字湯(おつじとう)でも升麻と柴胡を含み、脱肛の治療に役立つとされています。

升麻を中心にした処方には升麻葛根湯(しょうまかっこんとう)があります。発疹を伴う感染症の初期に使用します。この処方を服用すると一旦発疹が強く出ますが、その後湿疹や発熱は急速にひいて行き、治癒します。升麻葛根湯は発疹が出た時点で中止します。元々ははしかの薬でしたが、感冒の初期の頭痛、発熱、のどの痛み、あるいはじんましんや皮膚炎などに対して使用されることがあります。

升麻を中心とする処方は少なく、むしろ補助的に使用される傾向が強い印象です。サラシナショウマの花言葉は「雰囲気のいい人」「助力」だそうで、大変納得です。

Natural Life No.132
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2023年10月号に掲載

 

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会