漢方の生薬季節・天候と漢方
穀類と漢方《NaturalLife150_2026年10月》
秋はお米の美味しい季節ですね。アワやキビ、ハトムギなどの雑穀も秋に旬を迎えます。一方、小麦や大麦は初夏が最盛期となります。
私たちの食生活に欠かせないこれらの穀類ですが、古くから漢方薬にも利用されてきました。今回はそれらの面白い利用方法ご紹介したいと思います。
まずお米についてです。私たちがよく目にする粳米(うるちまい)や糯米(もちごめ)は、それぞれ粳米(こうべい)、糯米(だべい・じゅべい)と呼ばれる生薬になります。ともに胃腸を強くして、渇きをいやす働きがあるとされます。漢方処方には粳米がよく用いられ、乾いた咳を治療する麦門冬湯(ばくもんどうとう)や、熱感が強くて大汗をかき、口の渇きが激しいときに用いられる白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)などに含まれます。
小麦は小麦(しょうばく)という生薬になり、こころを養って気持ちを落ち着かせる働きがあるとされます。甘麦大棗湯(かんばくたそうとう)という処方でその働きが発揮されます。ちなみに小麦の中でも水に入れると浮かんでくるものは浮小麦(ふしょうばく)と呼ばれ、汗を止める働きがあるとされています。
大麦を発芽させたものは麦芽として、ビールや水飴の原料となりますが、漢方でも同じく麦芽(ばくが)という生薬名で、おもに消化促進の生薬として用いられます。中国では麦芽と同様に米を発芽させたものを殻芽(こくが)と呼び,やはり消化薬として用います。私が中国に留学していた時、研修先の医師がよく処方箋に「二芽」と書いていました。これは麦芽と殻芽を両方同時に用いることを意味しており、胃腸の弱い人に出されていました。
麦芽にはもう一つ特殊な使い方が知られています。それは赤ちゃんに母乳をあげるのを止めるとき,すなわち断乳の際に利用します。母乳を分泌するには,体内でプロラクチンというホルモンが働きます。麦芽はプロラクチンの分泌を抑制する働きがあり、昔から民間的にお乳の出を抑えるとして使われてきました。また,授乳期でないにもかかわらず,プロラクチンの血中濃度が高くなる高プロラクチン血症は不妊症の原因となり,このようなときにも麦芽が利用されることがあります。
ハトムギは穀類の中でもっとも薬草として認識されているかもしれません。イボや肌荒れの治療によく使われています。生薬名は薏苡仁(よくいにん)です。水分代謝の促進や、排膿の働きがあり、関節炎や下痢などにも応用されます。
粟(あわ)は、鉄などミネラル豊富な雑穀としても知られていますが、漢方では粟(あわ)または秫米(じゅつべい)と呼ばれ、胃腸を補強し、睡眠の質を改善するとされます。粟を含む処方には胃風湯(いふうとう)があり、虚弱で冷え症の人の下痢に用いられます。
身近な穀類に、それぞれに働きの違いを見出して利用してきた昔の人たちの知恵には感心するばかりです。

(写真:左から上段 粳米 小麦 麦芽 下段 薏苡仁 粟)
Natural Life No.150
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2026年10月号に掲載
執筆者情報

研究報告・講演等
翻訳
- 小児疾患と湿熱の関係
(中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英) - 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
(中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他) - 眼科領域における細辛の臨床応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
(中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福) - 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
(中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧) - 「気」の中医的概念と理気の方薬
(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
(中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武) - 「風薬治血」-風薬による血病治療
(中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶) - 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
(中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌) - 補陽還五湯の応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華) - 黄耆の運用経験
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春) - 黄耆の医案3例
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌) - 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸) - 応用範囲の広い温胆湯
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南) - 温胆湯の症例報告
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
