漢方日記

薬になる宝石《NaturalLife72_’17.1》

昨年の12月12日,2016年の世相を最も象徴する漢字が発表され,「金」が選ばれました。葉書やインターネットによる公募で決まるそうですが,「金」を推した人達からは,リオ五輪での金メダルラッシュや前東京都知事の政治と金(かね)の問題,イチロー選手の大記録達成の金字塔などが理由として挙げられたそうです。

じつは昨年1月の当コラムのタイトルが「金箔を用いた漢方薬」でした。1月なのでおめでたい話題をと思って書いたものです。金箔はきらびやかなだけでなく,こころを落ち着かせる働きがあるとされており,金箔を用いた漢方製剤が流通していることをご紹介しました。

中国では,金箔だけでなく,銀箔や真珠,琥珀といった宝石の類も薬用に供されることがあります。これら金箔,銀箔,真珠,琥珀には共通して鎮静作用があるとされています。中国の文献を見てみますと金箔,銀箔の活用は極々わずかですが,真珠や琥珀は気持ちの高ぶりや動悸,不眠,高熱などの治療時に散見されます。さらに真珠には解毒作用や皮膚の修復作用があるとされ,真珠入りのクリームなども見かけます。また琥珀は血流や水分代謝を改善する目的でも用いられます。

真珠と言ってまず頭に浮かぶのは,美しい白色をベースに独特の光沢をもち,アコヤ貝の産する玉状のものというイメージです。ところが調べてみると様々な貝から,様々な色沢の真珠が取れるようです。薬用となるのは白色の一般的なものですが,玉状となった部分だけでなく,貝殻の内側にある美しい色沢を持った真珠層と呼ばれる部分も用いられます。また真珠層を有する貝殻を砕いたものは真珠母(しんじゅぼ)あるいは珍珠母(ちんじゅぼ)と呼ばれ,やはり薬用とされます。真珠の主成分は炭酸カルシウムです。真珠に限らず,多くの貝の貝殻の成分は同様のもので,いくつかの貝種が鎮静や消炎の目的で使われます。とくにカキの貝殻は漢方ではなくてはならない重要な生薬です。

琥珀はマツやカエデの樹脂が化石化したものです。琥珀色という言葉がありますが,黄色味がかった透明感のある飴色が思い浮かびます。薬用とされる琥珀はもろく砕けやすいものが良いとされていますから,宝石としての価値は低いと思われます。しかし,こんなものまで口にした先人の経験は,どんな金銀財宝にも代えられない貴重なものです。

左から真珠末 真珠母 牡蛎(ぼれい:カキの貝殻)

貝殻

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会