漢方日記

混乱するタンポポ事情《NaturalLife123_’22.4》

身近な野草の代表格といえるタンポポ。早春から咲き出し、秋頃までその姿を見かけることがあります。

タンポポと一口に言っても、実際にはいろいろな種類があり、タンポポはその総称です。大きく分けると元々日本に自生する種と、外来種に分けられます。関東周辺ではカントウタンポポやシナノタンポポが自生しますが、外来のセイヨウタンポポも広く生育しています。自生種は花期が春に限られているのに対し、セイヨウタンポポはほぼ一年中花をつけます。また、自生種は自然豊かな山野に生育しやすいのに対し、外来種は都市部に多い傾向があります。山野の開発が進むほど、自生種は生育地を奪われ、外来種が広がる結果となります。

 カントウタンポポとセイヨウタンポポを見分けるポイントは、花の基部を包む総苞を見るとよいとされています(写真参照)。花と茎の境にある緑色の葉のような、がくのような部分です。植物学的にはがくではないとされています。この部分がセイヨウタンポポでは写真と異なり、総苞の内側が表出するように外へ開いて反り返ります。しかし個体差があったり、区別のつかない雑種もあるとのことで、種の特定は容易ではなく、混乱するばかりです。

西日本では、カンサイタンポポや白い花をつけるシロバナタンポポなどが見られます。タンポポの花は黄色いものだと子どもの頃から思っていましたので、シロバナタンポポを初めて見たときには、感動を覚えました。

さて、タンポポは漢字では蒲公英と表記します。漢方の世界ではこの蒲公英を「ほこうえい」と読み、根または根をつけた全草を生薬とします。中国では消炎解毒の生薬として、おでき、皮膚炎、乳腺炎、膀胱炎、結膜炎などに繁用されます。薬草の教科書には蒲公英は体を冷やすものであり、明確な炎症がある場合に用い、使用量が多すぎると下痢を来すことがあるという注意が書かれています。

最近の情報では、タンポポの葉には女性ホルモンの作用を促進させる物質が含まれていることがわかり、その成分を特殊な方法で抽出したものが、妊活中の女性に飲まれています。このような使用方法は現代科学に基づくものであり、漢方とは切り離して考える必要があります。

また根を焙煎して作る飲料が、コーヒーの代替品として飲まれています。ノンカフェインで体に優しく、体を温める作用もあり、妊婦さんでも安心して飲めるという宣伝文句もよく見かけます。漢方の本で蒲公英は体を冷やすと学んだ者にとっては、大変違和感があり、明らかな情報の混乱があります。それぞれに論拠や実績があることと思いますので、どちらが正しいとか間違っているとかを軽々に論じることはできませんが、使用して不調を感じたときにはくれぐれも注意をしていただきたい所です。

Natural Life No.123
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2022年4月号に掲載