漢方日記

10月の気象病《NaturalLife126_’22.10》

気温や気圧、湿度、晴雨、風といった気象要素の変化で生じる体調不良を「気象病」といいます。とくに台風など低気圧の影響で生じる頭痛が有名です。低気圧による失調には「低気圧不調」、痛みが症状の中心の場合には「天気痛」といった呼称も用いられます。気象病では頭痛以外にも関節痛、めまい、むくみ、だるさ、気分の落ち込み等が見られます。

8月や9月に比べて10月の台風接近は少ないですが、まだ油断はできない季節です。低気圧不調は、気圧変化を感じとる内耳やその先の神経、血流、また水分代謝等が悪影響を受けて生じることがわかってきました。耳の中の神経や自律神経が敏感な人は、気象病を発生しやすいとされます。平素、貧血気味、胃腸が弱い、車に酔いやすい等の体質の人も、気象変化に伴うめまいやむくみを発症しやすい傾向があります。

天気痛の治療に繁用される漢方処方に五苓散(ごれいさん)があります。元々五苓散は水分代謝を改善する処方として、むくみや尿不利、下痢、吐き気等に用いられるのですが、水分代謝障害に起因する頭痛やめまいにも有効で、気象病はまさにそのようなケースが多いとされます。ただし、水分代謝よりも自律神経のバランスや血流を改善した方が良いケースもあり、五苓散は万能ではありません。

自律神経は無意識に行う呼吸や拍動、消化等の生命活動を調節しており、活動時に優位な交感神経と、休息時に優位な副交感神経から成ります。自律神経は外界の変化や、感情の起伏、活動の強弱等を感知して、脈拍や呼吸を調節し、様々な変化に体を順応させようとします。ところが何らかの原因でこの調節が乱れると様々な不調が生じます。例えば精神的ストレスや夜更かし、栄養や水分摂取の過不足等は、自律神経を乱す原因となります。このような生活が続けば、気象変化への対応がうまくいかなくなっても不思議ではありません。

漢方には、体が気と血と水でできているという考え方があります。これらの量や流れのバランスを整えることが自律神経の安定にもつながり、また心身の不調を解消することにもなります。そのための漢方薬には様々な選択肢があり、状況に合ったものを選びます。また失調と関連しうる生活習慣があれば、その改善が最も重要となります。

さて、さらにこの季節に発症しやすいものとして、秋の花粉症や気管支喘息の発作が挙げられます。冬に向けて気温や湿度がぐっと下がり、動植物にも冬を迎えるための変化が起こってきます。これらの変化が人間にとって悪影響となってしまうことを減らすためには、やはり自律神経や免疫のバランスを整えることが大切であり、自然の摂理に適う生活を送ることが有効なのではないかと思われます。


写真左:茯苓(ぶくりょう)・右:猪苓(ちょれい)
それぞれキノコの菌糸の塊で地下に生じる。ともに水分代謝改善の要薬で五苓散に含まれる

Natural Life No.126
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2022年10月号に掲載